継承現場に光あれ!

とどまらぬ水とどまらぬ雲の秋
【作者】若井新一

台風19号の爪跡の報道がテレビから聞こえる朝、いつもの時間帯に印章組合の事務所に着くと、私より早くから大印展の仕事でパソコン画面を睨む技術委員の姿がありました。
出品者、組合理事、審査員、裏方の技術委員・・・みんなの力でできるのが大印展です。
印章もそうです。
彫刻のみでなく、そこへ至る全ての工程が最終の仕上がりを支えます。
職人は、全ての工程から学びます。
ある工程のみを引き出して、云々するのは間違いです。

新年度の技術講習会が始まりました。
私は講師として、印面の修正や補筆をと思い、硯と筆は常に持参しています。
ところが最近の講習会で、筆を持って印面に向かわれる講習生の姿をほとんど見ません。
印稿(印章のデザイン案)をエンピツやサインペンを使い紙に向かっています。
その原稿をパソコン技術を駆使して調整し、コピーしたものを印面に転写して彫刻するとのこと・・・そういうことは、家でこっそりとしてください。
嘗ては、そういうことを講習会ですることを恥としていましたが、今は・・・
彫刻機全盛の時代です。
「時代だから・・・」と言われる方もいましたが、私は時代だから全工程を手で作っていく技を講習会では、伝えねばならないと思います。

第三日曜日は、全国的にも講習会をされている所が多いようです。
広島で講習会をされている印友が、講習会風景の写真をフェイスブックに発信し、次のような文章を記されています。

「今日は技能士会の印章講習会です。朝からハンコのお勉強しております。一人一人がたかい技術で唯一無二の印章を彫ることが印章の価値を担保し、署名捺印の安全性で社会のお役に立っていると自負しています。
そのために日々の精進は欠かせません。若手も頑張ってくれています。」

各地の継承現場を健全化していくことにより、世に一つだけの価値ある印章を印章業者は、お客様のために、ひいては社会の為に作製しているという事を示していけると考えます。
いくら巷で訳の分からぬハンコまがいが出現しても、それを覆いつくすような継承現場であり続けることが我々の業を守る手段であると強く思いました。
そこに嘘や妥協があってはいけません。
強くそう思います。
継承現場に光あれ!

posted: 2019年 10月 21日