一印章業者からのお願い
印章は、紀元前5500年にメソポタミアの地に誕生し、シルクロードを通じて中国大陸の漢字文化を吸収し、律令制度と共に最終地点の奈良正倉院にて日本の「おしで」思想と融合し、支配層から庶民へと、その後の日本と日本人の暮らしの中に定着していきました。
その印章は、日本史を通して「真善美」を有するものに成長していきました。
1.認識上における真
明治6年太政官布告以来の印章制度の確立をうけて、「信証の具」としての役割は更に大きくなり、その後の日本の政治経済はもとより、文化にまで大きな影響を与えることとなりました。
信証の本質とは、「唯一無二」の形であり個の表現であります。
現在、その信憑性を疑われているのが現実の日本の印章市場であります。
パソコン印章やフォント印章の危険性は、消費者の知るところとなりました。
何故なら、このようにパソコンやスマートフォンは必要不可欠なツールとして存在して、日々の暮らしの中で使用されているからです。
デジタルでの印影の作製は、既に誰にでも可能となっています。
それをわざわざ、プリントアウトという彫刻をして使用する必要性を感じなくされてきています。
また誰にでもできるフォントによる作業での印章が、唯一無二であるはずが無くなってきています。
ひいては、アナログの印章がそれにより作製されれば、それに信用を置くことなどできるはずもありません。
2.倫理上における善
そういったなかで、印章がオモチャのように扱われ始めています。
パソコン機能を利用してフォントを歪めたり、キャラクターを貼り付けたりして、「かわいい」とか「おしゃれ」という言葉で形容されています。
パソコン機能やキャラクターを揶揄しているのではありません。
それでは、きちんとした印章である倫理上の善を有していないということなのです。
勿論、作製している印章業者の倫理が問われているのですが、そのようなものの使用は、印章の価値を貶めることとなり、印章の権威を失墜させかねないこととなりかねないので、このお願いに至ったわけです。
パソコンは便利なツールです。
しかし、既存のモノをコピペするのは創作とは言えません。
印章は、職人の創作物です。
パソコン印章は、印章にはあらず・・・です。
3.審美上における美
デザインの世界にもパソコンは大きな影響を与えています。
お酒のラベルやお菓子の包装紙には、嘗ては書家や篆刻家の作品が多く登用されていました。
それは、デザイナーが書家や篆刻家の文字に対する作品への尊敬を持たれていたからです。
今や、デザインとはコピペすることであり、フォントを歪めることのようです。
デザイナーが手を動かして仕事をしない。
美を追求するのではなく、経済的な合理性やスピードが要求されているのでしょうか。
印章業だけでなく、あらゆる仕事においてそうなり果ててしまっています。
手を動かすから、体に浸透し、脳に刺激を与え、創作が誕生するのです。
デザインの世界まで言及するのは行き過ぎかもしれませんので話を戻します。
印章は、職人の創作であらねば、「唯一無二」を守れません。
その職人が質量ともに低下と減少の一途をたどっています。
印章業界が技術継承を軽視して、とりわけ継承現場を無視してきたから、技能検定すら満足に維持できない業界になり果ててしまっているのです。
また、職人の仕事に対する需要が減少してきたからとも言えます。
パソコン印章やフォント印章が巷に溢れ、手間暇をかけないので早く安くできてしまいます。
消費者のみなさまには、きちんとした印章を常備して頂けるように心よりお願い申し上げます。
新型コロナウイルスの感染拡大により、政治経済の歪が見え隠れしている不穏な世情であります故に、尚更きちんとした印章、職人の手による「唯一無二」を守り、美を追求した印章をどうかよろしくお願い申し上げます。
また、印章業者もこういうときだからこそ、消費者の皆様にきちんとした印章をお届けすることを第一とすべきだとご提言いたします。
