【 三田村煕菴個展へのプロローグ①】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

印章を彫刻することを篆刻といった時代があり、ある時から篆刻と実用印章はその役割を別にしていった。

篆刻は、書道に内包されていき展覧会を中心とした芸術分野にその存在を求めている。

はんこや印鑑と呼ばれる印章は、本来の印章の本質を継承するために実用のなかに美を見出してきた。

400年前に全国の優秀な版木師がヨーロピアンスタイルの彫刻方法をポルトガル人から学び印判師となり、官から民に降りて行った印章。

そのヨーロピアンスタイルは、メソポタミアから分岐していった印の在り方が社会の求めに応じて活版印刷となり再び日本の印章と出会った。

写真製版が出来るまでの間、実用として写真画を彫刻していた方法である。

それがヨーロピアンスタイルの彫刻で、後には木口木版という芸術分野に存在を残した。

いろいろな時代的変遷と社会の要請が、複雑に絡みあい変化していった印章は、それぞれの分野の線引きとその役割を定めた。

ともあれ400年間続いて来た印章木口彫刻技術は、今後そのままのスタイルを維持できる状態では無くなってきた。

デジタル化していく社会の要請もあるが、内部からの変容にも原因はある。

手のみの彫刻ではなくなり、機械化が進んだというより、コンピュータが誰でも使えるパソコンとなり、それは流通を変えただけではなく、作り手の意識をも変容させていった。

押印廃止の号令だけでなく、そのような在り方が自ずと消費者に伝わり、印章の価値を低落させる要因となったのは事実である。

そこに大きく幕を引き、いにしえからの印章の在り方とそこに携わってきた名も無き職人たちを表面化させる工夫をもった新たな印章の息吹が求められている。

そこには、工人のプライドと技術の規範・道徳が息づき、新たな時代からの要請にこたえることのできる柔軟性をも含んだ芽吹きを感じる。

 

 

 

 

 

posted: 2025年 4月 10日