本物の継承は、マニュアルのみではできません

「軽く翼を水平に泳がせて 重たい荷物を運ぼう」
大阪の詩人・小野十三郎の詩句

ラジオを聞きながら仕事をしている時があります。
NHK関西ラジオワイドの中で、木津川計さんが、私を支えてきた言葉として紹介されていました。
戦争を賛美する詩歌や美文に作家は流され、人々はそれに感化されていきました。
小野十三郎 はそれを批判し、古ぼけた抒情に曇らされた眼では物事の実態を見抜くことはできないと主張したのです。 そんな時代に「大阪」という詩集を出版しました。その中の「明日」という詩です。
小野十三郎さんのお名前は知っておりましたが、その言葉は知らなかった。
重たい荷物が運べそうな、勇気がいただける言葉です。

話は変わりまして・・・今日の連続テレビ小説『スカーレット』の中から・・・
八郎のかつての弟子で、辞めさせられた腹いせに窃盗騒動を起こした2人が謝罪かたがた、喜美子に穴窯での作品作りを教えてもらいたいと懇願してきました。
武志は、企業秘密を教えるようなもんや、止めときと母の喜美子を制止しますが、喜美子は穴窯の中に二人を案内して、そのノウハウを惜しげもなく教えます。
この話を見ていると、商売人は企業秘密という言葉で囲んでしまい、職人は喜美子のように開放的かと思われますが、実際の職人の多くは、とても秘密主義です。
技術はなかなかオープンにしないものです。
ものすごく簡単なことでも、教えてやった式なところもあります。
喜美子のような人は、職人の中にはほぼいないと言っても過言ではなく、職人のいやらしさ丸出しの方が、如何に多く、そういう意味でも職人自らが技術に対して壁を作り、閉鎖的にしてきたかという事かも知れません。
私の周りの先生と呼ばれてきた人達の中にもおられますが、そういう意味では、私の場合、わりと可愛がっていただいた先生方に恵まれたのかもしれません。
はんこ職人は、お客も技術も囲い込む意識の強い人が多く、大変狭い世界観の持ち主が多いようです。
それを続けていると、継承者が減り、結局自分の技術も消滅していき、次世代どころか、周囲からも評価されなくなります。
本来、喜美子のように開放的にすべきです。
技術を開放的に教えても、それがそのまま伝わり模倣できるかというと、技術はそれほど甘くありません。
八郎さんが、武志に諭したように、たとえ穴窯のノウハウを教えても、喜美子が有している天分である造形力をそのまま模倣できることでもなく、喜美子が離婚してまでも、また火事を何回も起こしそうになりながら、模索してたどり着いた境地は、一度や二度の口伝で表現できるものではありません。
喜美子自身にしか出来ない物、本当の意味での唯一無二なのです。

posted: 2020年 2月 21日