印章とデジタルの共存はあり得ません
団栗の己が落葉に埋れけり
【作者】渡辺水巴
先日、私が加盟させて頂いている公益社団法人全日本印章業協会(以下、全印協)の会長が、河野大臣のツイッター記事に抗議のために、自民党の二階幹事長と面談されました。
そして昨日、河野大臣が衆院内閣委員会で、「押印廃止」と彫られたはんこの写真をツイッターに投稿して業界団体の反発を招いたことに関し「しっかりとその意図が伝わらなかったことはおわびを申し上げたい」と述べました。
コロナ禍のリモートワークの邪魔者という印章無用論から始まり、河野大臣の脱ハンコ宣言ともとれる発言と行動、そして今回の「押印廃止」と彫られたハンコのツイッター発信、これらに対して、山梨県知事をはじめ日本の印章制度・文化を守る議員連盟の政治的行動はニュースで見聞きしたり、印章政治連盟の報告をお聞きしたりしましたが、全印協の姿勢というものがはっきりしていなかったように感じておりました。
今回の会長の行動と、二階幹事長に渡した「要請文」の内容を読むと、漸く業界が一連の行動に対応してくれたという実感があります。
その「要請文」の内容が全印協の立ち位置だろうと思います。
大いに同意するところでありますが、それまでのデジタル化に一定の理解を示されてきた政治的行動に対しては若干の違和感を抱いてきました。
まず、私自身の意見を述べます。
私は、第三者が作られた印章やパソコンで作製された印章を右から左に商っているのではなく、私の手を通して作られた唯一無二の印章をお客様にお渡ししている・・・印章という商品を彫刻して販売している印章店の職人であり経営者です。
どちらかと言うと、職人気質のアナログ人間です。
押印を廃止するデジタル化には反対です。
何故ならば、これ以上の押印回数が減ることには反対だからです。
押印の機会が減少すれば、どうなるのか、平成10年から施行された「押印廃止ガイドライン」により、役所に行けば、多くの書類が押印することなく、身分を証明するものを提示すれば発行されるようになりました。
業界自体は、それに対して政治への働きかけを含めた署名活動などの反対行動を展開して、書類に「印」の文字を残しましたが、ほとんどの書類を発行して頂くのに、ハンコを持参して「印」の上に捺しても、運転免許証を忘れると発行してもらえない状態となりました。
何のための「印」の字なのだろうか。
役所に行くのにハンコがいらなくなりました。
そうこうしていると、今度はコンビニで印鑑証明や住民票が発行されるようになりました。
そこにもハンコはいりません。
どんどんと押印機会が減り、それは印章の価値を低下させる役割を担っていきました。
今度は、法律を変えてまで、印なき婚姻届や確定申告書を作ろうとしています。
デジタル化と印章は、共存していくと言われる業界の方がおられます。
作り手として、とても違和感があります。
作っていて、それがデジタルと共存できるものかどうかが分からないのかなと不思議でなりません。
印章を作る行為はアナログであります。
印章自体もアナログであります。
押印行為もアナログであります。
アナログとデジタルは共存できるのでしょうか。
電子印鑑というデジタルのなかに印影を表示するということが頭に過ぎる方がおられるかもしれません。
デジタルで作る印影は、そのままデジタルで完全表記されます。
アナログで職人が作った印章は、そのままデジタル化できませんし、デジタル化自体が不可能です。
何故なら、【デジタル化によるアナログ情報の変質はまぬがれない】からなのです。
圧倒的にアナログの情報量の方が多いのです。
デジタルは、全てのデーターを0か1で処理します。
0と1の間は、情報から欠落していくわけです。
丸い画像を描いても、職人が描く丸い形と比較すると、その形は似ているようですが、違ったものになってしまうというわけです。
ですので、職人が綺麗に仕上げた文字の線をデジタル化すると、現物とは似て非なるものになるというわけです。
詳しくは、こちらを参考にして下さい。
https://giraffeong.com/computer/162
デジタルは、「正確である」「劣化しにくい」「コピーによる劣化がない」「伝送による劣化がない」「再現性が高い」などのメリットがあります。
しかしながら、印章はアナログであります。
アナログの特性は情報量が多く、表現も豊かな反面、再現性が乏しく、コピーしにくい・劣化しやすいのが欠点ですが、情報が全て飛ぶことは稀であり、部分的に修復できることも多いため、その確実性が重宝される場合も多々あります。
そのアナログの特性を生かしたものが、印章だと私は思います。
デジタル化と印章は共存するのではなく、きちんと【住み分け】をするべきだと私は考えます。
印章業界、とりわけ政治連盟のみなさまからは、ひょっとするとお叱りを頂く発信かもしれませんが、この違和感は作り手である職人として抑えきれずに記させて頂きました。
一流の職人が仕上げた印章の個性あふれる綺麗な線は、決してデジタルで表せません。
posted: 2020年 11月 12日