印章技術の道行きは職人の手で

印章の中には、多様な要素が織り込まれています。

例えば、印章技術を一つとってみても、大陸の漢字文化を内包し、西洋活版印刷技術の発明による木口木版技術と結合しています。

お客さんは、その彫刻方法はやはり中国の篆刻技術から日本に入ってきたと思われている方がほとんどですが、そうではなく印刀という荒彫りの道具のもとは、西洋木口木版のビュランに由来するものです。

しかし、その西洋木口木版もビュランによる彫刻にとどまりますが、印章は仕上げ刀という片刃の刃物を使い仕上げます。

それは日本独特の考え方であり、美的センスの表れであろうと推察します。

 

日本刀の技術も「鉄の技術」と言われています。

西洋の分析化学では、同じ成分を使用しても作れなかった技術であります。

逆にドイツのゾリンゲンのナイフに応用されました。

日本刀は、平和な時代になっても、現在の日本においても、その技術は継承されています。

それだけの価値があると認められているからです。

また、刀装具の一つでもある鐔(つば)は、美術品としての高い価値を評価されているのと同様に、その彫金技術も造幣局の技術に継承されて行ったりしています。

着物も洋服に押されて、普段着としての役割の位置にはあらず、ハレの日の文化として位置づいていますが、その技術は染色、織技術、文様・柄などのデザインとして分離していき、各々の場所で価値を認められ日本文化の一翼を担っています。

印章技術もいずれは、そうなる事だろうと思います。

デジタルで作られたハンコは、電子印鑑であるのかも知れませんが、印章ではありません。

きちんとした印章は、日本刀や着物同様に、きちんとした職人の手(技術)により作製されるものです。

印章技術の道行きは、けっしてデジタルのエンジニアに導かれるのではなく、印章の本義を知り尽くした職人により導かれることだろうと推察します。

それは、西洋技術がなしえなかった日本刀の技術と同様に。

 

 

posted: 2020年 11月 17日