「シヤチハタはハンコの会社ではありません」
菊人形問答もなく崩さるる
【作者】藤田湘子
「シヤチハタはハンコの会社ではありません」
この記事を読んで、なるほどなと思いました。
私のお店は、何代も続いてきた老舗の印章店ではなく、私が初代、しかも脱サラの印章業界外部から仲間に入れて頂き、技術一筋で、今は古株としてうるさがられる存在です。
外部から入った修業時代、この業界に違和感を持ったのが「シャチハタ」と消費者から呼ばれているインク内蔵の浸透印(?)でした。
修業当初、明けても暮れても印刀を砥ぎ、印影を見つめるという生活でした。
その後、業界誌の誌上講習会への出品を始めました。
印影を取って送って添削して頂くのですが、「印影の取り方悪し」とか「印影にムラがある」「丁寧な印影に心がけましょう」という講評が帰ってきました。
印影一つ取るのも技術なんだ、奥の深い世界だと驚きました。
先生、先輩に聞くと、印泥という中国産の朱肉を使っている。
しかも、その種類も多く、扱い方も難しい。
流石に、プロの最先端は違うなぁと思いました。
朱肉の勉強もしていくと、朱肉あっての印章だという事が理解できるようになりました。
通常の印刷インキは、経年劣化して印刷が薄くなり、ついには消えてしまいます。
墨と朱肉は経年劣化せずに残ります。
高級な朱肉には、地球環境に悪い硫化水銀が入っているから紙が劣化してもその姿かたちを留めるのです。
シャチハタ(シヤチハタ)と呼ばれる浸透印はインキが紙に写るもので、経年劣化を前提として存在するものです。
ですので、登録印としては使用できないのです。
何故、それを印章店は一生懸命に販売されるのだろうかという疑問がありました。
昔からの慣習なのだろうか?
売れるから売っているのだろうか?
未だに、私なりの解答はありません。
印章店で印章としての付属品や、ゴム印を販売することは理解できます。
朱肉から対立軸にあるインキですので、必然的に印章の価値を低下させる役割を少しずつ消費者に啓蒙していくもので、朱肉を付けて捺す印章を売れ無くしていくものです。
先日のシヤチハタさんの記者会見や、25年前からデジタル分野に進出してきたという方向はよくわかります。
それは、「シヤチハタはハンコの会社ではありません」からなのです。
私が分からないのは、印章店は印章を商材として販売するというアイデンティティがあるのだろうかというところです。
脱ハンコ騒動後の印章業界は、デジタル化と共に歩む塊と、きちんとした印章を販売しようという塊の二つに分断されていく事と思います。
デジタル化と共存される塊は、印章の本義を捨てると思います。
そうしないとデジタルと共には歩めません。
先日、大印展や大阪の技術の在り方を作ってきた古参の先生方と会食をした時に、現役で商売をされている80歳をまわられた先生がこのように言われました。
「今まで、既製の認印のタワーとシヤチハタのネーム印のタワーを命がけで毎朝外に出してきたが、コロナ禍の脱ハンコ騒動で、それらを全て廃棄して、きちんとした印章の販売に専念するようにした。
考えると、それらは店の売り上げの一割に現在満たない状況だ、それを命がけで毎日出す事より、より良い接客に心がけた方が、心身ともに健康でよい。」
大先生に拍手です。
菊人形を作る職人さんには綺麗につくろうとか、動きを感じられるようにしようという問答があると思いますが、壊される方には問答がありません。
脱ハンコ騒動もコロナ禍により、いろんな疑問が洗い流されていくように感じます。
https://news.yahoo.co.jp/articles/72df538fc895f281cafb4e1434e45ce9c0cea869
posted: 2020年 11月 21日