急ごしらえは、あきまへん
はなはみないのちのかてとなりにけり
【作者】森アキ子

温かい日差しを感じる今日この頃で、通勤途上には引っ越しのトラックがあちらこちらに見かけられます。
愛知県常滑で実施された第31回技能グランプリが終了して、間もなく一月が経とうとしています。
審査に携わった者は、その内容を口外してはいけないこととなっています。
審査の内容に関わる事ではなく、競技補佐員としての仕事を果たしながら、雑談で話していた時に一番心に残った事項をお話します。
審査に携わった人達は、勿論それぞれの技術論をお持ちの先生方です。
技術に向き合う姿勢は厳しく、それだけのことをされている方々ですが、それぞれ少しずつですが、印章彫刻の方法が違います。
傾斜台を使用する、しない
棒台で仕上げる、篆刻台仕上げ
等々・・・
ある競技補佐員の方が、「あの選手は私と同じやり方だが、やり方が間違っている。」
遠目からしか我々は選手を見れないことになっていますが、姿勢や手の動きを見ていると分かるものなのです。
その方は、「教えてあげたい!」と言われていて、競技が終了すると、すぐに作品内容ではなく、彫刻作業についてレクチャーされていました。
私もいろんな彫刻方法を見てきました。
一番なのは、姿勢と運刀のリズムだと思います。
上手な人は、リズミカルに楽しそうに坦々と作業されています。
おそらく自らの仕事場でも、同じようにされているんだ、普段がそうなのだと想像容易いリズムです。
その時だけ、その作品だけという単純な一夜漬けではダメで、そんなに甘くはないのが技能グランプリです。
普段の自分が顔を出します。
仕事もそうです。
この仕事だけ、とりわけ懇切丁寧になんてできないのです。
全てが一緒。
普段の修練が大切なのです。
坦々と同じことを繰り返す、リズミカルに楽しく、長い年月をかけて積み重ねていく・・・
それが職人仕事だと思います。
付け焼刃や間に合わせでできるものではありません。
急ごしらえは、あきまへん。
posted: 2021年 3月 17日