国は印章業界をどうみているか

新型コロナウイルス対策で多忙な厚労省から5月1日付で「技能検定職種の統廃合に関する検討会」報告書が公表されました。
その職種の一つが「印章彫刻」です。
以前より、そのことは発信させて頂いてきましたが、検討会では技能検定の試験実施の要件に満たなくなったので「廃止」を前提に議論が始まりました。
検討結果は次のように下されました。
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印章彫刻職種
当該職種は潜在的な受検候補者数はあるものの、受検ニーズにつながっておらず、技能検定が長く実施されているにもかかわらず、受検申請者は減少している。業界全体としてその必要性が、理解共有されていないと考えられるため、廃止することが適当。一方で、関係業界団体が受検者拡大への取り組みなどを行っていることから、直ちに廃止にせず、令和3年度の受検申請者数が100人以上であった場合、かつ、関係業界団体の受検者拡大に向けた具体的な取り組みの結果を踏まえて、改めて本検討会に諮ることが適当。

この報告書に関して、昨日私が出来る範囲で業界関係者には仁義を通してお知らせいたしました。
以下、私なりの意見を加えて発信していきたいと思います。
この報告書を詳しく読み進めていきますと、印章業界を次のように分析されています。
「多くの印章店は、コピーの普及、パソコンの普及、インターネットの普及に伴い、印章彫刻技術に関係なく商売の量が減少し、更に機械彫刻も可能となり競争も激化、小規模店等は営業を続けられなくなるケースが多く、減少傾向にある。」
ということを前提にして、何故受検者が増加しないのかにも論及しています。
「 本来印章は手で彫ることにより唯一無二性をもち、それが個人を特定するカギとなるが、文字フォントを利用して印材に文字を彫る機械彫刻も可能なため、安さ、速さを売りとする商売の形で、彫刻技術がなくても印章業を営むことができる上、技能検定の資格取得が営業の必要条件となっていないため、取得に対
する意識を向上させることが難しい面がある。」
また違う角度からは、「 印章彫刻職種は、潜在的な受検候補者数はあるものの、受検ニーズにつながっておら ず、技能検定が長く実施しているにもかかわらず、受検申請者数は減少しており、業界全 体として技能検定の必要性が理解、共有されていないことが考えられる。」とも述べています。
即ち、業界自体が技術を軽視して、継承現場に力を入れていないということを国として指摘されたこととなります。
最後には業界の生末を案じて、「国家検定である技能検定が廃止になれば、印章彫刻の技能の継承が難しいものとなると共に、印章業界としての衰退に繋がってしまうと考えられる。」と結論付けられています。
厚労省は、国は、印章業界に対してこういう見解を下しているということが如実にわかる報告書でした。

話は変わりますが、昨夜のテレビでドイツの哲学者マルクス・ガブリエルの番組を見ました。
以前にも私が少しご紹介させて頂いた哲学者です。
新実在論が今の世界や経済、政治の在り方に切り込んだ面白いものでした。
今回とても印象に残ったのは、美は善と結びつく必要があるという考え方です。
美には、悪と善という側面があります。
ただ単に美のみを追求するのではなく、それを善と結びつける行為をする。
今のコロナ禍で、ここぞとばかりにそれを利用して商売をされる方もおられます。
また、医療現場に自社で開発したマスクや医療用具を届けたいという想いで仕事をされている方もおられます。
前者が悪いということではなく、それはピンチをチャンスに変えてという今までの経営論であるという事は確かで、その上には欲望が付加されています。
しかしながら、後者には欲望ではなく、想いという善が付加されて行きます。
その商品には善が結びつきます。
そういう商品は、これからの世界を圧巻していくというのがマルクス・ガブリエルの考え方です。
美に善を結びつける。
以前より、藤本胤峯先生の真善美の印章ということを発信しておりますが、テレビを見ながらそれを考えました。
今までの印章業界や技術者は、経営や技術(印章の美)を単独で推し進められてきて、善と結びつけることをされてこなかった。
それが、冒頭よりの厚労省という国からの見方をされるようになった。
これは、印章業界内部の責任であります。
それに対しては、私なりに引き続き努力はしてまいるつもりです。
しかしながら、それでも「技能検定の必要性が理解共有されない」のであれば、業界外部より、善との共鳴を求めて、そちらに比重を置いての思考と行動に転嫁していきたいと思っています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11078.html?fbclid=IwAR3lEq1pyPM12JJCjQwVOBGJB8OmvbMwzMoZNf235S4ukXEyYUrdas80X5A

posted: 2020年 5月 7日