実印を守るために

台風のたたたと来ればよいものを

【作者】大角真代

 

「ただ押しましたというハンコはいらない」と発言された河野大臣ですが、昨日、上川法務大臣が婚姻届けや離婚届の押印を廃止する方向で検討していると発表された時には驚きを禁じ得ませんでした。

婚姻届けに捺印する行為は、「ただ押しましたというハンコ」なのでしょうか?

出生届から遺産相続までハンコがいる日本社会でしたが、それを根本から変える動きが始動しだしたように感じます。

私の後輩は、パソコンフォントで作製されたオモチャのようなハンコが乱売され、既製の認印と同じような唯一無二が疑われる印章ならいらない、そういう行政手続きは廃止すべきだと言います。

同感に近いし、気持ちはとても理解できます。

ただ、官印から始まった日本の印章です。

その官印と印章制度を変えていこうという国策であるならば、捺印機会はドンドンと減少していき、印章社会から脱印章社会への流れは、台風14号に反して案外早い動きとなるのかも知れません。

印章社会であるから、「印形は首と吊り(釣り)替え」という言葉に代表されるように、怖いものであるので価値ある存在でありました。

それが捺印経験を奪っていく事により、価値ある物であるという意識が奪われていく事になります。

今の内閣の大臣は口をそろえて、「実印はなくならない」と言われています。

逆にとると、捺印が実印のみになるということも予想されます。

このところ、脱ハンコのネットニュースの最後に必ず掲載される「脱ハンコの動きをどう思うか」というアンケート結果には、7割以上の人が脱ハンコ賛成の意志を表明しています。

時折ハンコ議連も動きを見せますが、先の会長辞任騒動から国民の目線がハンコ議連に対して厳しいものとなっています。

動くと利権を残そうとしていると思われるようです。

議連の一部の動きに期待するのではなく、業界を挙げての「脱はんこ反対」運動に期待します。

しかしながら、このままでは印章需要は縮小していく事だと思います。

業界人は、春になれば印章需要は高まるという季節商売的な呑気さがあるように思いますが、来年の春はそうはならないと私は推察します。

上川法務大臣の婚姻と離婚届けの廃止は、法律を変えないと出来ません。

業界を挙げての反対署名を期待したいと思います。

 

ただ、業界は委縮してしまっていることは確かです。

委縮といえば、マイナスかも知れませんが、私は小さな業界である利点はあると思います。

小さな関連で、昨日の毎日新聞夕刊トップを写真でアップしました。

富山県舟橋村の取り組みです。

印章業界が実印の在り方を守るためには、今まで寛容過ぎた印章という商品の在り方を唯一無二を守るという観点から、また業界の猛省の視点に立ち洗い直さねば、最後の砦の実印の在り方まで崩していく事となると推察いたします。

河野大臣が「はんこ文化は残します」と言われて例に挙げた蔵書印ですが、私がいつ蔵書印を彫刻したのかを思い出してみました。

ここ数年なかったかなと、良く思い出してみると、昨年、東京の某大学図書館の蔵書印のお仕事にあたらせていただきましたが、それ以外にはありません。

蔵書印の彫刻のみでは、はんこ職人の腕は振るえずに、技能検定の存続の命運がかかる次の検定に希望される受検者はおられるのかなと不安を感じます。

 

分速で生産されるオモチャのようなパソコンフォント印章を廃して、熟練の職人によるクラフト的かつモラルのある本来あるべき印章作製の姿にもどるように業界あげての努力を期待しますと共に、そういうことなら協力を惜しみなく提供させて頂くと決意を表明致します。

 

posted: 2020年 10月 10日