もの作りとコロナ禍の社会

天高く梯子は空をせがむなり

【作者】仁藤さくら

 

昨夜のニュース23の中で、高級ブランド「コムデギャルソン」のデザイナー兼社長の川久保玲氏(78)が、もの作りについて次のように発言されていました。

「こういう状況下で少しでも、パワーの大切さを少し、皆さんにも分かって頂きたいと思いまして。もの作りのパワーを。あまり良くない状況で『何もできない』だとか、『少しお休みしよう』だとか、そういうことではなく、こういう時だからこそ何か新しいことに向かって進まなければいけないんじゃないかということで」

またコロナ禍の社会について、「制限だとかできないことが多くなると、その状態に慣れたり『それでいいかな』『しょうがない』と思うことは危険。かえってそこをチャンスとして強く前にいくパワーにしないと、この悪い状態を悪い悪いとしょげててもしょうがない」と述べられました。

 

78歳の川久保さんは、デザイナーでもあり、社長さんです。

一着の服が完成するのに、どれだけの工程があるのか、門外漢の私には知る由もありませんが、想像すると、デザインされたものを縫製して完成に至るのかなと考えます。

ファッション業界では、このデザイン力がとても問われ、それを世に出してセンスの良いデザインの服を着てみたいと、ファッションショーを見て、ご婦人方は思われるのだと思います。

 

印章の場合はどうでしょう?

嘗ての誤りより、手彫り、手仕上げ、機械彫りというコンセプトが優先して、手彫りなら高額というイメージしかなく、肝心かなめの印面デザインは、素人さんんには分からないと、後回しにするどころか、発信することを怠けてきたとしか言いようがありません。

ファッション業界より古い印章業界だと思います。

 

嘗て、ある職人さんが言われていました。

ゴム印のデザインやロゴマークを器用な職人さんは、わずかな価格やサービスと言って作製できる。

デザイン事務所に行けば、ロゴ作成代として高額な費用を要求される。

はんこ屋は、便利に重宝される。

 

だから、ダメなんだと思います。

唯一無二の印影が大切で、そこにファッションでいう、センスの良いとかデザイン性が表れます。

そう、上手い下手という技術力が一番現れるのです。

昔のお客さんは、それを上手に見分ける力と、文化を感じる鑑識眼という土壌を持っておられました。

捺印の機会がドンドンと奪われ、印章業界からの誤った視点(手彫り、手仕上げ、機械彫り)のみが市場で独り歩きして、印章の良否(技術のあるなし)を見えなくさせられてきました。

 

今更、ファッション業界の路線を業界を挙げて進むことは、技術力のない、職人の見えなくなった業界ではできるはずはありません。

(わざと、パフォーマンスで職人を見せる企画も一部では見えますが、職人が利用されているだけな気がします。)

父ちゃん母ちゃん経営の職人的経営をされているお店はクラフト的な発信に転換することは、大いに可能です。

かといって、印章以外のオーダーのグッズを色々扱うと、印章の専門性が薄くなります。

ましてや、オーダーグッズを自店での製作にしていると、それが仕事の中心になり、何屋さんかわからずに、発信力が分散していきます。

しかし、そこに気づいているお店もチラホラとで出てきています。

お店の独自性をインスタグラムなどで発信されているのを見ると、とても勉強になります。

 

このコロナ禍、「もうだめだ。」と諦めているとあきらめの神様が引っ付いてきます。

昨夜のニュースは、コムデギャルソンの川久保さんにパワーをもらいました。

有難うございます。

苦労して長年培ってきた本物の技術を、涙と共にどぶに捨てるような事だけはしたくありません。

頑張ります!

posted: 2020年 10月 21日