これからを生き抜くために

身に入むや秒針進むとて跳る

【作者】菅 裸馬

 

昨日は、愛知県印章技能士会の2級技能検定対策リモート講座で印稿についてお話させて頂きました。

その内容の一部を引用させていただきお話いたします。

印稿を書くのに綺麗な線や真っすぐな線をかけない方が多くおられるようでした。

しかし、どんな人でもできるようになりますよというお話をさせて頂きました。

印稿というのは本来ハンコを彫る下書きのようなものですが、検定試験では48ミリ角に9文字の篆書体を手で書いてレイアウトしていきます。

下書き程度ではなく、そのまま24ミリ角に縮小すれば使用できるくらいの完成した印影に近く書かねばなりません。

印章書体の中には、一筆で書けない(書ではない)ものが二つあります。

それは印篆と古印体という印章特有の書体です。

小篆や隷書、楷書、草書、行書は、書道の世界にあります。

書や篆刻と呼ばれているものは、芸術の領域です。

実用印章を彫刻するのは芸術ではなく工藝で、職人の世界です。

実用印章を彫刻している人はハンコ屋の職人であり、芸術家ではありません。

書家や篆刻家は、芸術的な仕事をされ、それにおける才能に溢れた人達であります。

手塚治虫は、学校の先生がチョークを挟んだコンパスで丸を書いている横で、それより正円に見える丸を先生より早く書いたという伝説がある天才漫画家です。

素晴らしい書家や篆刻家、手塚治虫は天才です。

それを真似した線を私が理想に掲げても表現することは到底出来なことだろうと思います。

工藝である実用印章を製作する人は職人であります。

職人は天才ではありません。

天才を真似せずに、職に向かい、消費者に向かい、より良きモノのために繰り返しの修練を積む人です。

職人の仕事は練度であります。

練度とは、何回も何回もトライするということ・・・一本の線を選択するために「私」を消し去りながら模索するその営みであります。

それをするのが職人で、芸術家は自らの個性を表現することを目的にしておられます。

職人はパフォーマーではなく、また作家でもありません。

今、職人本流の息吹が、あちらこちらで芽生え始めています。

それを大量生産大量消費型の商業主義的思考やその中での同業組合の在り方では実現できなかったのが現実で、それらを「私」同様に消し去る決意が次代を作っていくのだろうと推察します。

一昨日、買ってきた『芸術新潮』10月号の表紙に大きく書かれていた特集の題字には「これからを生き抜くための民藝」と記されていました。

大きな勇気を頂けたような気になりました。

さあ、新しい週です。

私のお客様が待っておられます。

頑張ります!

 

posted: 2021年 9月 27日