ヘラクレスの選択

「寒いね」と話しかければ
「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
(俵万智、『サラダ記念日』より)

自らの技術は、自らの努力により、自らの中に貯めていくものです。
しかし、それだけでは精魂込めた仕事というのは出来ないと思います。
自らの技術をどこに向けるか、そのベクトルが一番大切なことであります。

手慣れた仕事をし続けていると、悩み工夫することがなくなり、技術に対しての厭きが来ます。
お客様からお名前を頂き、それをパソコンのフォントで羅列していき、彫刻機に任せて、それをお渡ししてもお客様がわからない、何も言わないからそれでよしという仕事を続けていると、技術に関しての麻痺が起こってきます。
このぐらいの仕事でいいか・・・
パソコン画面のフォント・・・手直ししないと、同型印の危険性があると分かっていても、段々とそれをしなくなる。
パソコン画面の大きな円のなかにあるフォントの配列が、当たり前になって来る。
初心の想いは何処へ・・・

毎日、お客様から頂いた名前という文字と格闘し、如何にレイアウトすれば美しくなるのかという思考錯誤を繰り返す、書いては消してを繰り返した印稿(完成デザイン)、その仕事の中に必然として想いが入り込む・・・精魂込めるというのは、そういうことではないか!
それが連綿と繋がり、大きな文化となる。

実用や普段使いは文化ではないとする考え方が横行する。
芸術の域という言葉があるが、芸術と言われなければ、文化でないのか?
文化とは、積み重なった日常から生まれると、この頃強く考えます。
それは、伝える方向と対象があるからだとも考えます。

「寒いね」と答えてくれる人がいる
「うつくしいね」と言ってくれる使用者がいる

posted: 2019年 2月 15日