古の職人との会話

無垢無垢と滝に打たれてをりしかな
【作者】山崎十生

義父のご縁よりお仕事を頂いたご住職より古印章が届きました。
コロナが始まる少し前に、義父より預かった印影には、文字の足跡が見えない状態でした。
ひし形の朱がぽつんと紙のうえにある・・・

それを見つめながら、10数年ほど前に携わらせていただいた静岡県の寺院のお仕事を思い出しました。
古印章の復刻(写真の三寶印「佛法僧寶」の印影)
菱角のなかに多数の線が見え隠れしている状態の印影を頂き、ここから何をしろというのだろうと困り果て、ご住職に性根を抜いた古印章を送って頂いた。
朽ちている木材の種類もわからない、印面を見ると、彫り跡が朱肉の中に見え隠れしていました。
何百年も前のもの・・・
・・・性根が抜かれてはいましたが、文字を辿って悩んでいると、夢枕にこの印章を刻したであろう職人が立ち、文字の行方と姿を導いてくれたような気がしました。
それにて、古印の復活は果たせたのです。


信じられないような、スピリチュアルなお話ですが、実際の体験です。
それ以降、どのような印章でも、お金に糸目は付けないと言われても、私はお亡くなりになられた方の印章の改刻をしないようにしています。
他の物は分かりませんが、少なくとも印章には、その製作者である職人の魂と使用者の魂が混在しています。
その印面を削り取って、再び新たなる名前を彫ることは、私にはできなくなりました。
改刻をする職人に、目に見えないそれらの塊が飛び向かってきます。
神経を使い、すり減らす、とてもしんどい仕事なのです。
これは、あくまでも私の仕事へのスタンスです。
他の職人さんに強要しているお話ではありません。
私はできないというだけです。
寺社印の復刻は、前の印に倣い、新しい素材に彫刻します。
改刻とは違います。
前の印を睨まないといけません。
何日も考え続けないといけません。
自分の我や煩悩を捨て、元の印の職人さんの魂との会話をしないと出来ない仕事です。
これより上手に彫ってやろうとか、自分ならこういう文字の形は使わないとかいうことを全て葬り去らねばなりません。
寺社印の復刻は、私にとって修行です。
印章彫刻工としての本当の技量が試されます。
丹田に力を込めて、古印を睨み続ける日が続くように思います。
無垢無垢と・・・。
向き合っていると、神経がとても疲れます。
普段の仕事以上に疲れます。
しかし、復刻が完了すれば、すがすがしい気持と更なるエネルギーを頂けます。
今回は、菱形印二顆と寺号印、本尊印の合計四顆です。
半年くらいはかかりそうなお仕事ですが、ご住職もご理解くださる、そういうお仕事です。
携わらせて頂くことに、感謝いたします。

posted: 2020年 6月 9日