美術なら残れる!

来週には、第23回全国印章技術大競技会の審査の為に、東京に行かねばならないのですが、不安と恐怖を感じております。
それでも、審査を少しでも公平にする役割が一人ひとりの審査員にはあるはずですので、中止にならない限りは東京に向かいます。
昨日、厚生労働省の第25回「技能検定職種の統廃合等に関する検討会」の議事録を再読していて、コロナ以降の自らの仕事の在り方を考えていました。
印章業界は、技術がベースにあるはずなのですが、市場ではオモチャのようなパソコン印章が出回っています。
リモートワークの障壁として捉えられ、大手企業さんが脱ハンコ宣言をされ、それが次から次へと感染しています。
何れの企業さんも、ハンコは美術品としては残すべきであると話されていました。
社会的評価が、なぜ?印章に向けて低いのでしょうか。
技術を重んじる印章業者や技能士の人は、美術品を製作するように手間暇をかけて印章を彫刻しています。
しかし、多くの印章業者はそうでなく、パソコンでオモチャのようなハンコを平気で作製し、販売しています。
商品の価値より経営手腕が問われ、粗悪な商品を早く作成することに重きを置いてきました。
その結果、オモチャのような印章が、企業のリモートワークの邪魔になったのです。
それは国とて、同じような見方をしているようです。
厚労省の技能検定統廃合検討会のとある委員の発言をご紹介しましょう。
「印章彫刻は、昭和45年に申請されたのですが、累計受検者数が段々と減っていて、技能検定の受検は非常に低調であることと、過去にもこういった統廃合の検討会の対象に挙げられているよということ。また、ヒアリングによると潜在的な受検者候補者数はあるけれども、受検ニーズに繋がっていないということ、技能検定を長く実施しているにもかかわらず、業界全体として技能検定の必要性が理解されていないことが考えられます。」
これは、技能検定に於いての事ですが、技能検定すら維持できない業界が、技術を重んじている筈などないということの証明だと考えられます。
長い間技能検定に携わってきた私から言わせると、組織幹部の人は技能士の方であっても技能検定の制度が何たるかを知らない人が実に多く、実際に印章を毎日彫刻して、お客様にお渡ししている人は殆どおられなく、そういう人たちが組織運営をしているのだから仕方がないかなとも思います。
しかしながら、リモートワークの障壁となるオモチャのようなハンコは無くなって然りと思いますが、それに乗じて、実印やその制度が形骸化して、スマホに入れられた住基カードがその役割を代替するようになれば、これはもう大変というか、今まで技術とその継承現場を等閑にしてきた組織責任と言って過言ではありません。
実印や大切な印章には、分速で販売されているようなオモチャのハンコは、分速で作られているということです。
それでは、次は実印や大切なハンコが狙われる。

技能検定統廃合検討会の議事録を纏めた報告書には次のように記されています。
「印章業界全体の業社数は、業界誌調べに於いては約7,000 事業社となっているが、多くの印章店は、コピーの普及、パソコンの普及、インターネットの普及に伴い、印章彫刻技術に関係なく商売の量が減少し、更に機械彫刻も可能となり競争も激化、小規模店等は営業を続けられなくなるケースが多く、減少傾向にある。
受検者が増加しない要因の一つとして、本来印章は手で彫ることにより唯一無二性をもち、それが個人を特定するカギとなるが、文字フォントを利用して印材に文字を彫る機械彫刻も可能なため、安さ、速さを売りとする商売の形で、彫刻技術がなくても印章業を営むことができる上、技能検定の資格取得が営業の必要条件となっていないため、取得に対する意識を向上させることが難しい面がある。
国家検定である技能検定が廃止になれば、印章彫刻の技能の継承が難しいものとなると共に、印章業界としての衰退に繋がってしまうと考えられる。」

技能検定が廃止されるという事は、業界の衰退のメルクマールと言って過言ではないということです。
また、この衰退を国は自然衰退していく事だろうとみているということに繋がります。
だから、住基カードの多様化をはかり、スマホに詰め込もうとしていることに繋がります。
リモートワークの障壁としての印章や政治的なるハンコ議連の問題がおこってからの業界人の議論は、技術のありかたに向かう人はいなく、その制度論を議論し、はたまた言い尽くされると最終的には、ハンコは文化だとします。
しかし、そんな文化的な印章を彫刻販売している人はおられるのでしょうか?
まるで、文化包丁のようです。
悲しきかな・・・。
本来の原点、印章のベースである技術に目を向け、その工藝的側面を前面に出していきましょう。
美術なら残れる!のですから。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11078.html

posted: 2020年 7月 4日