「調整」と「調製」

芍薬の蕾のどれも明日ひらく
【作者】海野良子

昨日の記事のなかで、「実印を調整する」という言葉を用いましたが、Facebook友達Yさんから「調製する」ではありませんかとのコメントを頂きました。
つくる・製作するというニュアンスからして、「調製する」が正しいかなと思いまして、印章関連の古書にあたると「調整する」という言葉が目に付きました。
ネットで調べてみると・・・
【調整】調子・過不足をととのえる
【調製】注文に応じて作る
「調整」も「調製」も、どちらもチョウセイと読む同音異義語です。
とありました。
言葉の在り様からすると、ご指摘を頂いたYさんが正しいと思います。
では、何故印章においての古書には、「調整」とあるのかなという疑問が出来ました。
著者が間違われたとも考えられますが、その著書には、次のような文章を見出しました。
「印章は彫刻者の全人格と、全精神力の所産である。刻者は高い見識をもって、正しい印章の力作を念願したい。」という書き出しから始まり、使用者が捺印効果の重大性については認識しているが、印章そのものについては知識を持つ人は多くはなく、印章は買い付けない物を買うという行為であり、それは容易ではないとしています。
ですので、そのお客様を正しく導くことが印章業者の使命でなければなりません。(「啓発」という言葉で現在では言い表されているようです)

現在の印章店はどのようにされているのでしょうか?
私が思うには、その使命をお忘れになり、経営論に夢中になり過ぎたのかなと思われる節があります。
啓発は、大きな団体や組織がする事ではなく、お客様に対面して販売をするお店の在り方が重要になってきます。
その折に、一時はやりましたお客様第一主義の考え方が、印章選択を注文者の自由選択に任せてしまったという私からすると落度がありました。
見本ケースに並べられた印材を、少しばかりの素材説明が添付されていたとしても、ほとんどを価格と外観を選択基準としなければなりません。
書体の選択(嘗ては、字体選択と言いました)においても、素材選定よりも難題なのですが、これも見本帳より自由な選択・・・文字のレイアウトや印面のデザイン性についての説明などという専門性は持ち合わせていない店員による案内では、正しい印章の選択は無理で、啓発などどこ吹く風が横行してきたというのも現状の印章業界を表しているのかも知れません。

そういう意味で、作る、製作するというよりも、本来の啓発である「調整」が私はピッタリの言葉であると思います。
お客様のニーズを調べて、印章への啓発を含んで正しい知識を整えていくこと。
これが今の業界に一番求められている事だと痛感致します。

「調整」が深い認識として職人の私の心に染みていきました。
Yさん有難うございました。

posted: 2020年 6月 17日