何を受け継いでいかねばならないか

うそのやうな十六日櫻咲きにけり

【作者】正岡子規

 

2年前の「最高の道具・・・手」のリブログに頂いたコメントとその返信をそのままご紹介致します。

頂いたコメント・・・

「先日印章ケースを作っている職人さんにカチッと閉まらないケースを修理に出したところ、こんなものかな?と手で少し曲げた?ら完全に閉まるようになりました。長年の経験がなければできないことでありその他にもケース製作の際の拘りも色々話して頂きました。私もこの歳になって思うのですが簡単に作ったモノ、安価にはしったモノを優先させる人生は薄っぺらいものであると感じます、印章に限らず修行をした技術者の手により作られたモノを大切に使う、それが高価であっても使う度に幸福感がある、今の薄っぺらい時代に残された最後の至福であると信じます。」

 

私の返信・・・

「ケースの金具は「かしめる」と自分の納まるところを知り、きちんと閉まるようになるとケースを作製している義父に聞いたことがあります。

職人も修業をして「かしめられ」、何を作っているのかの職人道徳を技術とともに叩き込められるのが、本来の姿だと思います。

修業は死に物狂いの大変さを伴います。

それが嫌で、それに向かわないのに職人面した職人や、日々使用しているデジタル的な事に呑み込まれて行ってしまうのは、もはや考え方の時点で職人ではありません。

つい先日、お客さまより「職人」と呼ばれる事は嫌ではありませんか?作家とか印章デザイナーとかお呼びした方が良いのでしょうかと問われました。

いや、職人と呼ばれる事にプライドを持っています。

職人で構いません。

むしろ、職人と呼んでくださいと・・・

いま、印章業界に日々手を動かし、印刀や仕上げ刀を手で砥ぎ、手仕事をされている本物の職人さんが何人おられるでしょうか?

また、印章の本義を大切に守ろうと努力されている職人さんは何人おられることでしょう!

薄っぺらい時代ですが、貴殿のように手仕事の重みと魂を理解してくれる人の為に、もうひと頑張り致します。」

最後に、先日ご紹介させて頂いた『刃物たるべく 職人の昭和』の背表紙に書かれていた文章の一部をご紹介致します。

「・・・神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気と呼ばれた、戦後いくつかの好景気の波は、豊かさや便利さを生活にもたらす一方で、日本人の価値観や感性を変えていった。

より安価に、早く、多くのモノを均一に生産しうる新技術や新素材は、道具を使ってものを生み出すことにかかわる価値観や道徳を変質させ、あれほどの輝きを放った技術の系譜は、昭和から平成へと時代が移る頃、老鍛冶・老職人たちの退場とともに終焉を迎えようとしていた。・・・」

 

その中から、その教訓から今の我々技術者・職人は、何を受け継いでいかねばならないかは、コロナが教えてくれた、又あぶり出してくれている大切な事象ではないだろうか。

posted: 2021年 1月 16日