感性と感覚

かはほりの天地反転くれなゐに

※「かはほり(蝙蝠・こうもり)」

【作者】小川双々子

 

職人の仕事の技術継承とは、おそらくその職人の感性を伝える事だと思います。

感性は感覚とは少し違うと、最近思い出しました。

継承の感性とは、その仕事や技術に対する感覚と、職人道徳やその職の規範を含むもので、熟練という言葉に裏打ちされた練度の高いものであると思います。

今、感性を伝える事はとても難しい環境にあると思います。

ノウハウとしての技術は伝わったように見えるのですが、その他が付随していないので、中身のない次に伝えるには難しい形だけのものとなり果てています。その結果、伝統と名の付く、継承を伴う技術は消滅の危機にあります。

 

印章技術も然りであります。

印章の良し悪しを技術力に求めることは良いのですが、その技術力の判断基準を作業の在り方のみに焦点をあてた出発点が間違っていたと思います。

いわゆる、手彫り・手仕上げ・機械彫りという区分であります。

いろんな忖度や同調意識が働き、この事を発信しているのは業界で私くらいです。

いろいろと言い訳をいっても、この言葉が市場を闊歩しているので、もうどうすることも出来ません。

現に、技能検定2級がそれにより影響を受けて、受検内容が変わり、私も検定水準会議に東京に行きました。

どう変わったのかは、印刀がいらなくなったという結論ですが、「手仕上げ検定」となりました。

機械で荒彫りされた素材を手仕上げするということと、それでは文字のレイアウトが吟味できないので、印稿を書くという作業が加わっていますが、印刀は要らないのです。

下手をしますと、仕上げ刀さえいらない。

デザインナイフを仕上げ等の代わりとして使用も許されています。(水準会議で私が質問をして確認されました。)

ところが、1級は元の通りの純粋な「手彫り」で、18ミリ丸の社名巻きの法人印を彫刻しなければなりません。

ですので、2級に合格した人が次に1級に挑戦する時に、一から印刀作りと荒彫り技術を教えなければなりません。

印刀作りと荒彫りは、本来最初に教えて頂く、基本以前なのです。

そして、それには集中とその後の練度が必要です。

ここを回避したのが、いわゆる「手仕上げ」なのです。

かはほり(こうもり)の天地反転なのです。

手仕上げをするとは・・・

・2級技能士が手仕上げをする

・1級技能士が手仕上げをする

・熟練の職人が手仕上げをする

・パソコンオペレーターが手仕上げをする

・既製フォントを手仕上げする

・フォントを使用してレイアウト構成し直した印稿を手仕上げする

・職人が書いた文字を手仕上げする

・職人が手描きした印稿を手仕上げする

・熟練職人の印稿を用いて、第三者が手仕上げする

全て手仕上げなのですが、全て意味と結果が違います。

 

現場では、すごく継承が難しくされています。

今こそ、感性を伝えられるきちんとした講師の登録と派遣のために、早急な「講師バンク制度」の設立が希求されていると私は思います。

 

posted: 2022年 7月 26日