砥石・・・そのアナログな世界観

人間に火星近づく暑さかな

【作者】萩原朔太郎

 

利便性を優先したデジタル社会を目指すことをとやかく言うつもりはありませんが、デジタルが1・2・1・2・1・2・・・の連続で、1,1や1,8という1と2の間を表現できないもので、それを補完できるのがアナログであるという事を忘れないで頂きたいと思います。

それを忘れてアナログを敵視したデジタルだけの社会になるのは面白くありません。

印章彫刻の技術継承現場にもそのことは表れています。

フェイスブックのお友達で京都の砥石の鉱山から掘削されているTVで有名になった「最後の砥石掘削師」といわれている方がとある道具店で500万円の砥石を紹介されていました。

嘗ての職人は、宵越しの金は持たないという酒飲みでも稼ぎの半分は道具にお金をかけたと言われています。

永六輔著『職人』の中には、「女房貸しても砥石は貸すな」という大工の言葉が紹介されていました。

 

今の講習会では、荒砥と中砥を兼用したダイアモンド砥石を使っていて、砥石が凹むことも無く、そのまま使えて早く刃物が下りて便利です。

利便性が高いので、皆さん使用しています。

私も時折使用します。

ただ、これでは刃物の硬さが体を通して伝わりません。

まず、荒砥で形を作る。

その上で、中砥で整えていく。

最後に名倉と仕上げ砥を使い刃付けをしていく。

面倒くさいものです。

利便性のかけらもありません。

けれど、これで覚えると刃物の仕組みが体に伝わります。

ダイアモンド砥石もよいけれど、形が優先して、刃物が何であるのかの理解が遅れます。

この砥石を探すのも実は大変な作業なのです。

他人が良いとか、師匠が良いと言っても、自分に合わない場合があります。

本当に不思議なのですが・・・。

これも最近の講習生を見ているとネットで買われます。

道具屋、金物屋、大工道具店、刃物屋さんなどに足しげく通って、漸く自分にフィットしたものが手に入ったという話はもう過去のものとなりました。

私は、堅めの本山を使っています。

これに合う名倉を探すのに一苦労しました。

(※名倉・・・砥石の砥石と言われていますが、この砥ぎ成分と仕上げ砥石の成分がまじりあい刃付けができます。)

技術講習会の会場である組合事務所は恵美須町にあります。

その近くの日本橋、今はオタロードとなっていますが、その昔は大きな電気屋街でした。

電気道具だけでなく大工道具のお店もあり、真ん中あたりに三階建ての「五階百貨店」があります

その周辺は少し?かなり怪しい店も多いのですが、昔ながらの大工道具を扱うところもあり、おっちゃんのはったり話も面白く、時折良いものが出ています。

そこでおっちゃんお勧めの名倉に出会いました。

数年前に小さくなり過ぎた名倉をネット通販で購入し使用していたのですが、どうも合わない、自分に合わない、納得がいかないので、その五階百貨店裏の店に行きました。

その時は品切れていて、2か月後にゲットしました。

これでなくっちゃ!と今も愛用しています。

物凄く利便性から遠い究極のアナログ優先のお話でした。

posted: 2022年 7月 30日