両忘
書を売つて書斎のすきし寒(さむさ)哉
【作者】幸田露伴
【両忘】
生死、貧富、善悪、愛憎。世の中には対立する事柄があふれています。貧乏は嫌だ、金持ちがいい、この人は好き、あの人は嫌い・・・こんな風に色々なことを分けて判断していませんか?
好き嫌いなどで分けると、それがさらに心の葛藤を生み出すこともあります。そんな時は、ふたつに分けたことを一旦忘れてしまいましょう。
嫌いな人の意見でも的確なら賛成。好きな人の意見に従えないこともある。
分類するよりも、物事の本質をとらえて判断することが大切です。
・・・『心がまあるくなる禅語』(リベラル社)より
ネットで検索していると、コブクロの歌で『両忘』というのを発見しました。
https://kobukuro.com/feature/kobukuro_ryoubou
昨年の暮れに、来年は「両忘」を心の片隅におきたいと書きました。
その話を繰り返しますと、職人ですから、「上手い」とか「下手」、美醜にこだわるところはありますと話させて頂きました。
修業の過程では、そのことだけが頭にあり、ライバルよりも上手くなりたいとか、美しいものを作りたいという欲目が先行していました。
今から考えると、それも小手先の技であり、対立する関係を作り出す「勝負」の世界であったと思います。
そのためには、先生先輩の言う事が黒であっても白だと言わねばならない世界が徒弟制度であると考えていた節もありました。
本当につい最近まで、それを後進にも求めていたような気がします。
そうすると、後進も小手先の技術を得ることだけに懸命になり、印章の本質を理解しようとしない、職人道徳や哲学を学ぶこともない者を増産していたのかも知れないと、ここ最近の周りを見渡し反省するところです。
そういうところから抜け出すことができたのは、工藝や民藝を学ぶことが出来たからだと考えています。
河井寛次郎の言葉に「美を追わない仕事 仕事の後から追ってくる美」という言葉があります。
また柳宗悦は「美の法門」のなかで次のように述べています。
「・・・伝統は一人立ちが出来ない者を助けてくれる。それは大きな安全な船にも等しい。そのお蔭で小さな人間も大きな海原を乗り切ることが出来る。伝統は個人の脆さを救ってくれる。実にこの世の多くの美しいものが、美しくなる力なくして成ったことを想い起さねばならない。かかる場合、救いは人々自らの資格に依ったのではない。彼ら以上のものが仕事をしているのである。」
posted: 2025年 2月 10日