はんこと日本人

神様と人との約束事を守るために生じた「おしで」という考え方が、やがては人と人との約束事を守るための契約に変化して、大陸からの印章というツールを用いて、それを表現し継承し続けてきた日本人。
その長い歴史のなかには、国と国との約束事もありました。
サインというと、はんこと反対の勢力のように感じる人もいるかもしれませんが、日本印章史の中には花押(書き判)というサイン文化が花開いた時代もあります。
そうして継承されてきたのが日本におけるはんこであります。
技術の継承のみならず、使用者や社会と一体となり守り続けられてきたのが「おしで」以来の印章(はんこ)という思想なのです。
今、印章(はんこ)を取り巻く環境は、世の流れでありますデジタル化と一見すると対峙しているように見えますが、これも後世からすると、花押の時代にあったような印章の価値への誤認であったと言えることを望みたいと思います。
書き判を彫刻して印章にするような考え方が、デジタルの中に印影を残すという考え方に類似していて面白いとも思いますが、それは何か違うとも私は考えます。
こちら側がデジタルに合わせていくというのではなく、デジタルが文化や伝統に近づくという考え方はないのでしょうか?
世の変化があって、変わらなくてはいけないものもありますが、変えずに守らないといけないものもあると思います。

写真の『はんこと日本人』の著者は、佛教大学の教授です。
この手の読み物は、ともすると学者先生のお堅い論文のようなものが多いのが事実ですが、これは一般人の常識としても楽しく読めると思います。
業界も内部でワーワー言って抗ているだけでなく、内部に知を貯めて後進に伝えていく活動として、こういう外部の研究者を呼んで講演会くらいしていただきたいものですね。
また、来年の技能検定を受検される人の学科試験の副読本としては、最良かなとも思います。

posted: 2018年 12月 6日