第12章 字法と章法・・・その4

(7)増減の法

<唯一無二の論拠>

文字の画数を増やしたり、減らしたりが自由に出来る印章文字の便法に「増減の法」があります。

これは、楷書や行書には見られない篆書独特の文字の形態を美しく整える調整法であります。

しかし、むやみやたらに使用すると間の抜けた印章になるので、誰にでもできることではなく、昔は秘伝とされ、たとえ用いても軽々しく示すことはしませんでした。

この「増減の法」があるので同一印が出来ずに、印章の唯一無二を保つことが出来る大きな論拠の一つであります。

おそらく、篆書の発明がなく、いきなり楷書や行書の誕生となれば、印そのものの発明はなかったであろうし、楷書や行書の印章が出来たとしてもその発展はなく、個人の信を示す宝器にはならなく、単なるスタンプで完結していたことでしょう。

印章の発達とともに変化していった印篆・・・摹印篆の形状の変化は、印章文化の恩恵を頂いている我々の日常生活に大きく貢献したと言って過言ではありません。

<天来の福音>

子どもが生まれた時、画数を気にして「名つけ」の本を購入する人は多いと思います。

また、姓名学にとらわれすぎて改名する人も時折おられます。

ハンコ屋さんを商っていると、そういう事例に遭遇します。

子どもの「名つけ」ぐらいなら、1~2冊の本を読むと大体の】要領がつかめ、素人でも一夜漬けの易者になれます。

姓名学は、過去や性格が的中したりするので、手近で親しみやすい運命学の一つでありますが、本当にその奥義を理解するには「韻鏡」「易学」に帰する物であります。

姓名学の構成は123の数の理に天地人、陰陽、音韻を以て構成し、字の義がこれに伴うものです。

各流の方法が多様にありますが、数理の霊動を第一とするもので、この影響は大きくてその人の性格などは数理だけで知ることが可能です。

この数理に基づき、更に木火土金水の五行に分かち相生相剋をみて運気を計るものだから数の一画が吉凶の岐路になってくるのです。

改名しても戸籍名まで変えるのは極めて困難でありますので、俗称として使用される方が多かった。しかし、それでは銀行印も使用できないのが昨今であります。

署名と実印の名が全然相違していることは、不自然であります。

この時に用いて妙味或るは、篆法の増減の法であります。

楷書は一点一画も増減損益は不可能でありますが、印篆はほとんどの文字が一定の法則の範囲内で増減自在であります。

とはいえ、この便法も篆源を究めない者が、徒に使用すると奇妙な印となり、人に醜悪を与えるという大凶を招くことになります。

姓名の損益は数理五行を知り篆源に通じる刻者の行い得る印の妙諦であります。

前述で、ハンコ屋はそういう事例に会うというお話しをしましたが、次のようなことがありました。

子どもの「名つけ」のおりに、親は「裕子」とつけたく思いましたが、易者には一画多いと言われ、衣篇を示篇に変えられ「名つけ」をされた方がおられました。

易者も易者なら親も親であります。

凶名は吉数に整えて配文するのが天職として印章を業とする者の常識ともなれば倖せでありますが、篆書の初歩にも達せぬ印刻者とその手であるPC型彫刻機が多い今日では、この妙法の発達も難しい状況であります。

 

 

posted: 2014年 4月 26日