第12章 字法と章法・・・その5

(8)錯綜仮借

<印章の興趣>

文字を入交させたり、組み合わせたりすると共に、冠、旁、篇、沓、辶などを借りて各々の字に用いる構成法を錯綜仮借といいます。

増減法にも利用されますが、これは章法、字法に属し、すこぶる妙味のあるもので、巧みに配文すれば印章の興趣極まりない手法で、雅印にはよくもちいられています。

別ページに、その代表的なものを三点挙げておきます。

 

この仮借を現代の印章に応用する時は、局促(せせこましさ)の調節であります。

「松村」「信保」「深江」などにも活用自在でありますが、未熟の者が誤用すれば、間の抜けた印になります。

聯字省下(れんじしたをはぶく)の法、聯字省上(れんじうえをはぶく)の法、聯字皆省(ねんじみなはぶく)の法なども減画の法でありますが、専門の域に渉るのでここでは割愛させていただきます。

別ページ最後の例は、物の形を用いて語(ことば)を省略する「用物形省語(ようぶつけいしょうご)」であります。もちろん、現代印章の正印には不適格であることは言うまでもありませんが、興味ある雅事でありますので、ご紹介しておきます。

9)易と章法

<易理に一致>

売卜者は易経に通じず、これを究めないで、筮竹を手にして人の運命を指図する。また、我々印章彫刻に携わるものでも印章学を勉強しないで、印刀を執る者が甚だ多いことは事実であります。

これは、船が漕げるからといって、羅針盤も持たずに太平洋横断を企てるようなものです。

従って、そのなすところ世の識者の顰蹙(ひんしゅく)を買うばかりであります。

印章も易も中国に発し、法と理を尽くしたもので、両者の理には多くの一致点を見出すことが出来ます。

章法における構成配置(じくばり)は易の伝に当たります。

朱白款識は爻の陰陽、方円曲直は図書縦衡、変化頓挫は往来屈伸、朱間相白は陰中の陽、陽中の陰、那依増減は参伍錯綜、承応主客は貞悔相応に通じると言います。

印刻者(印章彫刻に携わる者)は人の信を示す宝器を彫る(刻す)尊い職業である故に、深く内省し、修養、勉学に励み、人格を高め、美しくお客様の品性を高めるような印章を刻すよう心掛けるべきであり、易者は易の在り方を正しく認識し、場たりの妄言によって人を惑わしめるような罪を重ねないで、正しい運命の指導に当たるようにすべきであります。

 

<先に印章学あり>

開運印や吉相印、その書体である印相体、あるいは八方篆書体は、全て先に易学ありです。

輪郭の八方に必ず文字を接触させるとか、姓名学により姓名の画数と吉数を足して接点数を求め、必ずその数字に文字を接触させるというものです。

即ち、印章学や文字論は易学(方位学のみのような気も致しますが)の後回しになり、易が優先で、文字がその基本を壊し、誤字や文様になってもお構いなしという文字と印章学を冒涜するものであります。

先に美しい文字があり、それを丸の中にバランスよく納める能力があってこそ印章は、信をしめす宝器となり得ます。

先に印章学があり、それと呼応する形で易が生きてくることは、前述のとおりであります。

 

posted: 2014年 4月 26日