Q9,輪郭を太くすればが欠けないハンコになるのでは?

質問:印面のなかで、一番細い輪郭がよく欠けるので、最初から輪郭を太くしてもらえば強度が増し、欠けないハンコが出来ると思うのですが・・・。

 

解答:

(A1)まずは素材面からの解答です。

柘の素材は細かな細工が効く、大変彫刻しやすい材料なのですが、摩耗しやすい材料でもあります。長年使用していると、どうしても一番細い輪郭を明確に記す為に、押印時に輪郭に力を入れて回転させるように押捺します。

だんだんと輪郭部分の磨耗のみ強くなり、輪郭が欠けるのではなく、摩耗して減ってきます。

印面を見ると、かまぼこ状になっています。

これは、柘材の運命であります。

もう一つ、これは最近の材料でありますが、アクリル樹脂材のハンコです。

多くはその彫刻がドリル式の機械での彫刻ですので、細い輪郭部分が急激な崖のようになっていて、最初から欠けやすくなっています。

また、このアクリル樹脂材はキャラクター入りや和風の文様が施されているので、一見かわいいとかオシャレと思ってしまいがちですが、素材そのものはプリンについているオサジと同類の樹脂です。このプリンのオサジを何度も使い回しするとある時、パリッと折れてしまった経験がないでしょうか。そうです、これも樹脂の運命で、素材そのものが割と早く劣化してしまうのです。

そもそも印章には不適格です。

すごく硬い素材を使用すれば・・・ということで最近よく見かけられる貴石やチタンは、手で彫れない硬さです。職人の手作業をお求めになられる方には、ふさわしくはない素材です。

(A2)次に、文字と輪郭のバランスからの解答です。

印章の印面は大変小さな美の世界で、方寸の美ともよばれています。

そのため、文字の太さに対して輪郭も決定されます。

輪郭部分を太くして、文字部分を極細にする彫り方もあります。

法人印の角印に良くみられる彫刻方法です。

これはこれでバランスが取れているので良いのですが、個人の印章で輪郭太く文字が極細のものは、大正時代から昭和初期に流行った彫り方ですが、最近ではあまり見かけなくなっています。

文字も太く輪郭も太いと大変面白いハンコになってしまい、上記の方寸の美とは程遠いヘンテコな物となります。

また彫刻方法としても、機械彫りではできませんが、輪郭部分に少しの傾斜(土手)を付けて強度を増すことも出来ます。

また、素材の最大円を使用せず、その円より少し小さめの円を輪郭とすることにより外圧を防ぐことも出来ます。この場合、あまり土手をつけすぎると、捺印時に土手部分に朱肉がのり、正確な印影を一定に保つことが出来なくなるので、ほどほどが大切です。

(A3)最後に、思わぬ事故でハンコを破損する事は仕方がありませんが、輪郭部分の破損は不注意でのそれや、印章ケースについている小さな朱肉に無理やりハンコを押しつけて破損するという場合が非常に多くみかけられます。

印章の要は、印面の美しさが第一、次に大切に扱うということです。

安物印、多量乱造の駄印は、いくら格付けや装飾を施して立派に見せようとしても、中身は美のない駄印ですので、大切に扱う気持ちは自然と遠のいて、気が付けば輪郭破損で、それだけなら良いのですが、財産や生命が欠けてしまえばどうなることでしょうか。

 

posted: 2014年 4月 10日