はんこ文化の振興とは?
秋夜遭ふ機関車につづく車輛なし
【作者】山口誓子
「文化を振興していく」という言葉は便利な言葉だ。
文化という曖昧なものに置き換えれば、それでお終いになる。
はんこ文化とは、一体どういったものなんだろう。
印章業を営む私でさえ、わからない・・・。
そんな曖昧なものを、どのように振興してくれるのかと思っていたら、やはり強硬な姿勢を示された。
あくまでも「行政手続き上のはんこ廃止」であっても、思い出してほしい、役所での押印廃止が進んだ時、「印」の字を書類上に残したと勝ち誇った業界人であったが、その「印」の字に捺印する住民はいなくなりました。
はんこを持参しても、形だけ・・・
本人の身分証明を忘れると、はんこを持参していても、書類は1枚たりとも発行されません。
こうして、ドンドンと捺印機会が奪われて行きました。
それとともにデジタルの進行に押されて、はんこを作製する職人自体も技術や経験のいらないパソコン連動彫刻機が全国を圧巻しました。
誰でもはんこが彫刻できる時代に突入すると、オモチャのようなはんこの乱売時代に突入しました。
実用印と同様に考えられた、捺して楽しいはんこが文化だと勘違いされる業界人さえいます。
印章を捺印する意味を取り違えた文化なら、それを振興することは、日本文化を衰退させる要因にはなりはしないかと危惧さえ感じる今日この頃です。
「行政手続き上のはんこ廃止」は、捺印の機会を減らした国民意識をつくり、それが民間に波及して、やがては捺印の機会が皆無になる日も間近なのかも知れません。
その前に、はんこ職人の消滅は秒読みのような気がしてなりません。
大臣には、文化の振興ではなく、具体的なるストッパー的施策を示して頂きたいと強く望みます。
私は、デジタルでないアナログとしての形を残す作業に入ります。
その形から印章冬の時代からの脱却を模索していきたいと強く感じています。
posted: 2020年 10月 2日