第18章 捺印法と朱肉・・・その1

(1)捺印の仕方

<印影は気分を反映する>

昔から印を彫る人はあっても、印を押捺する人はない、と言われるほどに捺印法は難しいものです。

第一に印肉(朱肉)のつけ方です。印肉は中央部が高くなる形にしておき、印面でその形を更に整えるように軽く数回叩くようにすると良い。

第二に印褥(いんじょく)であります。ゴム板では柔らか過ぎて輪郭に不同が生じます。ガラス板の上に和紙を印の大きさに応じて十枚~二十枚を敷くと、綺麗な印影を得ることができます。15ミリ丸の実印では、十枚が理想です。

第三は捺印です。印章に軽く目礼し、臍下丹田に力を込めて、ゆるやかに紙面に押し、指先で「の」の字を書くような気持ちで力を入れて「し」の字に引くように緩やかに離すと良い。

<人格と誠意を表す>

前回の捺印要領を心得て、次第とこれになじむようにしていくと、意外にも目上の人に認められることとなるでしょう。

朱の色も鮮やかな美しい印影(押し型)がどれ程に隊舎の心を動かすものか、計りがたい微妙なものがあります。

捺印は朱肉を付けて捺すだけで良いことではありますが、上品な押し方の上達は毎日の入念な押捺の末に達し得られるものです。

平素伝票などの簡単な箇所に粗雑な捺印ばかりをしている人が、いざ重要書類に晴れがましい捺印をさせられると、必ず気おくれして押し損じることとなります。

また、役所の書類関係に押印が不要になり久しい時間が過ぎておりますが、一般市民も押印回数が少なくなってきています。

そのことを合理的、ハンコが要らなくなり便利になったと考えておられる方は、市民としての押印の権利をはく奪されその経験を奪われてきているということの意味をもう一度考え直して頂きたいと思います。

印章の安物もその心に影響して忸怩の気は印影に及び人柄をぐっと見下げられて損失も大きいこととなります。

これは、日頃硬い椅子に無作法に座っているのが、社長室にある大きな安楽椅子にすわらされたもののようで、恰好がつかず落ち着かない醜態を演ずるのと同じであり、普段の心構えこそ本来肝心なことなのです。

何気なく見かける印影に、その人の捺印の態度を感じ、信念と誠意も窺がわれるものです。

人はちょっとした仕種(しぐさ)にも何か想いが伝わるもので、重要な署名捺印ともなれば、この仕種の表す感覚は、運命を支配するまでにも増幅されます。

いかに内容が充実した文書でも、そのポイントになる捺印が乱雑であれば、その誠意は疑われ、信用を失う結果となります。

捺印はひとたび誤れば一身一家を破る重大事をも喚起します。

談笑と酒杯の間に調印したりするが如きは身を誤る基です。

かりそめの契約も、自己の実力を考えた後に調印するべきです。

その捺印の慎重さは自然に印影に反映するものです。

今ここに金談が成立しても、その証書の捺印に不安がある時は、速やかに破談するのが上策であります。

契約不履行の書類の印影が何れも乱雑不正を暗示する駄印で叩きつけた捺印法であります。

posted: 2014年 5月 12日