神無月の思い出

空狭き都に住むや神無月
【作者】夏目漱石

陰暦十月の異称が「神無月」ですので、まだちと早いのですが、この時期になると思いだす事があります。
神無月に神在月の島根県に行ったことがあります。
平成13年11月、第21回一級技能グランプリ全国競技大会(当時の正式名称で、今は「技能グランプリ」に変わりました)に大阪代表選手の一人として参加しました。
この頃は毎年3月の中央開催で、初めての11月の地方大会でした。
結果は惨憺たるもので、ライバルに1位を持って行かれました。
参加選手で出雲大社に参拝もさせて頂きました。
当時の選手とは、年齢も似通っていて、今でも印友としてのお付き合いをさせて頂いており、困った時には力になり合う仲です。
参加選手にとって、技能グランプリの目的は、1位を取ること以外にはないと思います。
しかしながら、振り返ってみるとそうでもなく、それは私が1位を取れなかったという負け惜しみかも知れませんが、大きな経験とかけがえのない印友を多く持てた事が、今の仕事の財産になっていると思います。
最高の技術の作品を目指し、印章を作製する・・・それは、大切なことだと思います。
しかし、モノづくりというのは技術オンリーではないということに、恥ずかしながら、最近気づきました。
最高の技術の印章を作製する先は、自分では無く、使用者にあるということです。
自分が持てる技術とともに魂を吹き込む、それに共鳴された使用者が購入頂き、その後に自らの魂を吹き込みながら使用してくださる。
そして、その人オンリーの世に一つの印章が存在する。
とてつもなく長いスタンスで、印章を製作するという職人哲学が必要なのです。
それを教えてくれたのは、技能グランプリではなく、そこに集った多くの仲間たちの汗であったと、今振り返ると、強く思い出されます。

そういう経験を多くの後進にして頂きたい、継承していただきたいと思い、印章業界での技能検定や技能グランプリの継続を微力ながら声にしていかねばと考えています。
自分が良ければよいという考え方は転換していかないと「継承」はありません。
「継承」が無くなると、自分もその技も無くなります。

posted: 2019年 10月 24日