継承の意志

輪島の塗師、赤木明登先生がフェイスブックの記事で、「近代化とともに、人の手の中から生み出されるものから失われていった何かとは?」と問われておられました。

以下、私なりのご返答のコメントであります。

・・・最近つよく思うことがあります。

赤木先生への解答から外れるのかも知れませんが、失われていったものは、「継承の意志」だと思います。

印章が、ここまで社会からそっぽを向かれるようになるとは、印章を製作する側も、それを業として販売する者も、ほんの4~5年前には、考えていなかったことだろうと思います。

何が欠けていたのか・・・

その理由の大半は、「技術継承の意志」です。きちんとした印章を提供していますよという方は、今はまだおられるかもしれません。しかしながら、その意志を次世代に技や考え方を伝える努力をしておられる方はどのくらいおられるでしょうか。

業界も狭くなりましたので、片手で数えるくらいの人だと断言できます。

次には、印章を継承させようとする意志です。

技術を重んじる人は、自分の技に溺れる場合が多いように感じます。

技が先行して、物の価値が後回しになる。

物の本質に触れようとせずに、「わしの技が一番」という思考が強くなり、「継承の意志」を打ち砕く何かがものに入り込んでしまう。

嘗ての宗教は、「普及の意志」より「継承の意志」が強かったと推察します。

今の御朱印に押された印章のほとんどがゴム印になり、若い僧侶やパートの寺社職員が捺しやすいということで、そのようになっていると思います。

ところが、古い寺社印を手に取ると、中から、まずは製作者の意志が表れます。次に、寺社代々の僧侶の意志が、そしてお札に押された印章を崇める人々の意志が私の前に表れます。

近代化が原因なのかは、分からないのですが、今多くの印章を職業と考えておられる方の中から失われたものは、「継承の意志」だと私は思います。

 

posted: 2020年 7月 18日