旅人に机定まり年暮るゝ

【作者】前田普羅

 

机・・・

 

学生さんの机

会社員の机

商売人の机

職人の机

 

きちんと整理整頓された机

ものが乱暴に置かれ、何処に何があるのか分からない机

傷だらけの机

それぞれの表情を持った机

 

職人の腕は、道具を見ると一目瞭然、その人の技量が計られます。

私の場合、机を見て想像するところがたくさんあります。

元来の怠け者の私は、そんなに机の上を片づけはしません。

仕事がしやすいように配置します。

また、左利きの私の机は、右利きの人と少し違うのかも知れません。

職人の机を見ることが好きな私は、若いころから講習会だけにせず、先生方の仕事場に押しかけていき、仕事をされている先生の手元を覗き込むのと同時に、机の観察もしていたものです。

また怠け者の私は、ほおっておくと修業をサボります。

机の上に『印の畑』講習会に課題を駒という材料に字入れして、常に見えるところに置いておき、仕事の合間に眺める・・・ああ、やらなくてはという気に自分を持って行きます。

そういう繰り返しを机の上でして来たことにより今があります。

昨日も印稿(ハンコのデザイン)を二つ考えるのに使いました。

他の仕事は出来ませんでした。

机の上や周辺、机の下にも字書やら印譜集、参考資料を置き、これでもかこれでもかと、さらに良い文字レイアウトを模索し続けました。

今の力量のギリギリのところまで自分を持って行く、後悔した仕事をお客様にお渡しすると、そのお客様は次には来ません。

技術を追求するとはそういう事ではないかと考えます。

いい加減なものを大量に生産して、集客ばかりに目が行き、それに悪戦苦闘することも大切なのかも知れませんが、きちんとした商品に満足感以上の感動を持たれたお客様は、必ず次にもお声をかけてくださります。

そこに力点をおいた机には、やはり表情があるのではと思います。

机を見ていると、その人となりが伝わってきます。

最近、フェイスブックやインスタグラムで、机の上を撮影された記事を見ると、記事よりも机を見て、いろいろ想像する私です。

ああ、来年のグランプリに向けて頑張ってはるなとか、それは私も6回も経験した机なので、よく理解できるのです。

今の私の机には、今年中にきちんとした仕事をして納めさせて頂く、字入れ中の二寸角のお寺の印が、忘れるなよ!と怠け者の私に向かって叫んでいます。

 

posted: 2020年 12月 11日