ちゃんとしたハンコ(印章)
赤い椿白い椿と落ちにけり
【作者】河東碧梧桐
技能グランプリの競技補佐員として参加するため、コロナ感染対策として二週間前検温が始まりました。
ここ数年、風邪もひかないので、体温計を使ったこともなく、毎日体温を計るという面白いことに付き合わされている。
今回は無観客競技となるために、選手は競技を終えたら解散となるが、我々競技関係者はもう少し常滑の会場に滞在しなければならず、2泊3日となる。
この時期の、2泊3日はとてもつらい。
グランプリに行くまでにある程度の仕事の目途を付けなければならない。
当店は、「真善美の印章」をわかり易く「姿のうつくしい印章」という言葉に置き換えて説明しています。
その前に、「きちんとした印章」であることは大前提である。
大阪なので、「ちゃんとしたハンコを作ろうと思いまして」とか「気が付けば、ハンコ屋さんが無くなっている」、「職人さんが見えるハンコ屋さんがなくなった」というお客様が増えてきました。
「ちゃんとしたハンコ(印章)」は、量産できません。
職人がその道徳に基づいて、技術を駆使して精魂込めるから「ちゃんとしたハンコ」になるわけです。
技能グランプリも、練習に練習を積んだ技能士が7時間で30ミリ角に9文字の課題を彫り上げる。
一本のハンコを彫るのに7時間かかるのです。
グランプリの出場資格の1級技能士になるための技能検定試験は、4時間半で会社実印を彫ります。
2級の「手仕上げ」でも3時間半です。
一日、彫刻のみしていて1本から2本ですね。
しかし大手ネット市場では、大量?の注文を受けて、それを「当日発送」や「翌日発送」としています。
どんな仕事かは、私は想像すらできません。
「熟練職人の手仕上げ」とも書いていますが、そんなに大量の受注なら、2級技能士がたくさんいなければ、手仕上げができないはずです。
ですが業界的には、技能検定の受検者が集まらなく、令和3年度後期技能検定で100名の受検者を集めなければ廃止となります。
その技能検定への取り組みも業界あげてになっていないのが実情で、検定を実施する都道府県の組合組織が片手で数えられるのが、それを如実に表しているのは誰も反論がないと思います。
そして、そのことは技能グランプリの出場要件の1級技能士が、その後二度と輩出されないという結論を導き出します。
1級技能士はどんどんと、高齢化していきます。
ますます、「ちゃんとしたハンコ」を彫れるハンコ屋さんが無くなっていく事だろうと・・・ふと!・・・大手ネットショップの宣伝をみながら思いました。
あっ!今回の技能グランプリは、全国から16名の熱き選手が集います。
頑張れ!残り少なくなった戦士たち。
posted: 2021年 2月 9日コメントありがとうございます。
昨日のブログへいただいたコメントを改めてご紹介致します。
念のために・・・コメントを頂いたのは印章業界の人ではなく、印章に詳しい一般消費者からのコメントです。
「印章業界は嘘がはびこり我々客が素人であることをいいことに平気で嘘をつきます。例えば銀行印はお金が上から下に流れないために横書きにするとか印章ケースの装飾である覆輪を縁起が良いから福輪と言い換えたり開運なる怪しい文字ともいえない印相体が印章の代表といってみたり個人の信証、責任を示す道具が滅茶苦茶なモノになっています。要するに客は何も分かってないから売れるモノを適当に売るから始まりろくに修行、勉強もしない人間がモチーフ印鑑やキャラ印鑑を職人面して売る、何も知らない素人は三文判しか見たことがないので喜んで買う、最早取り返しのつかない局面まできていると思います。しかし本物が滅び偽物しか残らない文化というのは日本人として寂しい限りですね。」
コメントへの私の返信です。
「コメント有難うございます。
印章業のみならず、伝統工芸や工芸的なものにおいては、現在とても良く見られる事象だと思います。
日本文化を阻害する外来文化で溢れ、それが商業主義を助長する合理性や利便性が優先される日常の生活や仕事を作り出しています。
デジタルに一定の理解をする姿勢を示さなければ、印章が業として成り立たなくなると思い込まされているのは、その日々のデジタル化されつくした生活と仕事から生じて来ていると思います。
それに合わなくなった日本文化の一員は排除されていく事になるのだろうと推察致します。
職人面が残っているのは、それへの憧れや尊敬が日本人としての血脈に遺伝子情報として残っているからかなとも考えますが、職人は一夜漬けでできる代物ではなく、とてつもない修業と経験がものを言う腕の世界であるということは確かですね。」
技能検定は待ったなし!
通勤途上のパン屋さんの組合会館に、「パン製造技能検定 実技試験会場」の立て看板が出ていました。
そうか!技能検定なんだ。
思わず写真をパチリ‼
令和2年度の前期試験はコロナにより中止となっていましたが、後期は実施されると職業能力開発協会のホームページにも掲載されていました。
他人事ではなく、印章彫刻職種も令和3年度後期には実施予定です。
昨年、コロナにより技術講習会は休講続きで、通信添削やリモート講習で乗り切ってきました。
しかし、また緊急事態宣言が出され、今年も満足な対面講習が出来そうにもありません。
また長引くコロナ禍は、講習生の技術研鑽意欲を削ぐような気もしています。
今朝、何気なく公益社団法人 全日本印章業協会のホームページを開くと、東京組合さんの2級技能検定対策講座がワンクール終了して、2回目の講座が4月から始まりますよという案内がありました。
↓
http://www.inshou.or.jp/inshou/common/pdf/2kyukenteijbosyu.pdf
頑張りますね。
本日、講習生2名から1級の添削課題が届きました。
posted: 2021年 1月 20日コロナ禍により作り手と売り手の分離がより早く明確化していくことだろ…
十日戎所詮われらは食ひ倒れ
【作者】岡本圭岳
今年は、えべっさんもマスクをしているのかな。
昨日の2年前のリブログ”本気でハンコを売ろうとしている業界人はいなくなりつつあるのかな”の記事に新たに書き加えた「大阪市の行政手続きへの認印廃止・・・認印の価値を落とし込めるようなNHKのニュースへの感想」という記事に対して読者の方からコメントを頂きました。
そのコメントと私の返信をそのまま掲載させてもらいます。
頂いたコメント・・・
「私の実家の近くに県内で唯一印章ケースを製造する職人さんがいるのですがもう自分の代で店じまいということです。牙蓋や覆輪細工もできる職人もそのうちいなくなり象嵌印材など在庫を残すのみだとか。唯一無二の自分の責任を示す道具、それを見えないところまで拘ったケースから取り出す、日本人の粋だと思うのですが・・ではコロナで印章を悪者にし日本の伝統、文化を捨てた結果感染者が減ったか?今の現状が示すとおりです。民族の伝統文化を簡単に捨てただけです、人間は誰かを悪者にしなければ生きられない存在ですがあまりにも残念で悲しい結果ですね。」
コメントへの私の返信・・・
「おっしゃる通りだと思います。
他の伝統文化の継承を担われている業界も同様の事だと推察します。
政治の問題も一つです。
業界自身の政治や利便性優先の生活形態への迎合もあると思います。
今回の脱ハンコに象徴されるような印章のみでなく、着物(和服)の文化などは、その先頭を切っているようにも感じます。
作り手と売り手が分離していく。
売り手の商品理解度が低くなり、何を売っているのかを自覚できていない、ただ売れればよいとか、売れるものを売るとか・・・・
それに呆れ、嫌気がさした作り手が売り手になっていく。
しかし、技術継承をしなくなった、或いは、技術に関心がなくなった業界人が、修業の苦労を嫌がり、そこに身を投じなくなり、ドンドンときちんとした職人がいなくなり始めています。
そして、中途半端な技術を有したパフォーマーが、却ってそのものの価値を低下させていく・・・この悪循環を断ち切ろうとしているのが、ひょっとすると「コロナ禍」なのかも知れません。」
下は、NHKのニュースです。↓
https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20210109/2000039600.html
posted: 2021年 1月 11日
ガンバレ!技術を愛する印章業界の人達
大阪は少し減少傾向みたいですが、全国的にはコロナの感染者数の増加の最中の昨日、少人数で行おうと、3人の技術委員会有志が組合事務所に集まりました。
「令和印章修錬会」の印譜の発送作業を完了しました。
コロナ禍の今年は、大印展が中止と理事会で決定された時には、仕方がないという諦めとともに、どないかせんとアカン!という二つの複雑な気持ちが入り混じっていました。
愚痴や文句を言い周りに迷惑をかけたこともありましたが、みんなで代替事業「令和印章修錬会」をしようと決めたときには、一安心しました。
しかし、集まる事の出来ない事業は困難の道でした。
審査員の先生方も、一つひとつの作品に寸評されるのは、とても大変であったと思います。
この場をお借りしまして、改めてお礼申し上げます。
また、それを編集するのも大変でした。
今回は、木口彫刻に特化した事業でしたが、例年通りの全ての部門において、同じようにせよとなると、おそらくみんな逃げ出してしまうことでしょう。
スタッフのみんなも、講習会が休講状態の中、それへの対策もあり、集まれずに大変であったと思います。
心より技術委員会の仲間たちにエールを送りたいと思います。
来年の大印展もこのままでいけば、開催も危ぶまれるかもしれません。
押印機会の減少が春から予想される中、印章店自体の存続も大変になると思います。
出品者のみなさんも、それどころではなくなるのかも知れません。
来年の事を言うと、鬼滅の刃が笑うと言います?
しかし、コロナ禍での大印展代替事業を乗り切った仲間たちの力を信じて来年も頑張りたいと思います。
宜しくお願い申し上げます。
出品者の皆様には、年末の郵便事情もありますが、おそらく年内にはお手元に届くと思います。
また、今回の教訓を全国のはんこ屋組合の組合長に知って頂きたいという理事長の考えから、例年の大印展では印譜を送らないのですが、今回は発送させて頂きます。
これで、全国の組合に技術の在り方を考え頂き、来年10月に応募の始まる技能検定に向けての一助にして頂ければ幸いです。
また、2月にありますグランプリの選手の参考資料となる事を願います。
ガンバレ!技術を愛する印章業界の人達。
posted: 2020年 12月 28日
今年もお世話になりました。
今年も残すところ数日となりました。
今年は、気が付けばコロナの感染が拡大し、短い期間で三つもの波を世界的に迎えています。
それに伴い、今まで隠されていたものが表面化して来ています。
働き方もそうですし、そもそも働くとは・・・とか、地球環境の問題などもそうです。
昨夜の19回目の「ナウシカ」もコロナ禍で視聴すると、新鮮な問題提起があるようにも感じられました。
印章は、コロナ禍以前から、製作現場と継承現場の在り方から、冬の時代と定義していましたが、コロナの感染拡大に相俟って、脱ハンコ騒動が顕在化して、来年には氷河期に突入することと思います。
印章自体は、数十年後か百年後かは存じませんが、姿を変えて蘇りを果たすと思います。
人と人との約束を司る日本古来の「おしで」という思想は、そうやすやすと変容するものでありませんし、印章という具体物においても、作製方法や在り方が時代に合わせて変化を見せてきました。
今ある実用印章の作製技術は、大陸文化と西洋技術の融合でなされたものです。予測される押印機会の減少により、それは消滅していく事だろうと、製作現場と継承現場を見ていて、或いは業界人の意識の在り方から、そのように感じるところであります。
しかし印章彫刻技術を分化して、その利用方法を模索することは出来ます。
新たな分野への橋渡しになるかも知れませんし、伝統技術を内在する仕事や工芸、技芸、芸術、美術との関係を持つことにより生き抜く糧を見出したいと思っています。
今年の最後の仕事として、大きなお寺の法要儀式の印章を作製させて頂く機会に恵まれました。
まだ、もう少しこのような仕事は、私が仕事ができる間にはあるでしょうし、きちんとした印章や印章に美を求められるお客様と共に、実印や銀行印、法人印の作製に精を出したと思っています。
来年も頑張る所存です。
宜しくお付き合い賜りますように、お願い申し上げます。
「姿のうつくしい印章」をお届けする三田村印章店・・・
今年は、28日(月)までの営業とさせて頂きます。
来年は、1月5日(火)を仕事初めと致します。
posted: 2020年 12月 26日メディアのつくる~文化?
ともかくもあなた任せのとしの暮
【作者】小林一茶
ラジオから、今年はコロナで人に会えない日が多かったので、年賀状を出す人が多いとのお話、鬼滅の刃も流行り、そのキャラクター付き年賀状の売れ行きも好評らしい。
それに付随して、「年賀状文化」という言葉が耳に入った。
なんでも文化を付けたがるのかな。
脱ハンコ騒動の折にも、「ハンコ文化」という言葉で表現された。
ハンコは文化なんだと、蔵書印や落款印をとりあげて文化としていた。
100均で購入できるハンコは、文化ではないと否定されていた。
行政手続きの押印の為のハンコも・・・
何故だろう?
「職人文化」・・・そういう言葉はないのだろうけれど、かれこれ10年以上お話してきている。
毎日新聞の朝刊、大阪地域ページに今年の現代の名工、堺の鍛冶屋さん、平川康弘さんが紹介されていた。
現代の名工は11月のプレス発表でありましたが、ここ数年、三大新聞は紹介しなくなりました。
黄綬褒章もそれに倣えとなっています。
私の時は、読売新聞が取り上げてくれました。
「年賀状文化」や「ハンコ文化」と同様に、今の文化への捉え方が反映されているように感じます。
メディアから~文化と聞こえてくると、少し疑った方が良いのかな・・・。
posted: 2020年 12月 16日